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新バイブル・ストーリーズ

ロジャー・パルバースの『新バイブル・ストーリーズ』。21世紀に生きる人びとに向けて、聖書の物語を語り直した短篇集。基本的には聖書のストーリーを下敷きにしているが、現代的なエッセンスやひねりが加えられている。ノアの箱舟、バベルの塔、ダビデとゴリアテなど、よく知られている話が中心になっているので、聖書に詳しくなくてもじゅうぶんに楽しめる。

たとえば、「バベルの塔」。聖書では、言葉がばらばらになって互いの意思が通じなくなったのは、人間の思い上がりに怒った神の罰ということになっているが、この『新バイブル・ストーリーズ』では、巨大な塔の各階に住む民族(「八階人」とか「三○三階人」とか)がいがみあった必然の結果として描かれている。争いで住む「階」を追われ、行くあてもなく階段をさまよう「階段民」なんかも出てきて、現代の世界が映し出されている。

あるいは、原典と裏表がひっくりかえったような感じになっている「ヨナ」。この本に出てくるヨナは、外の世界で争いに巻き込まれるくらいなら魚の腹のなかで一生のんびりしていたいと願い、ときどき飲み込まれてくる魚やイカをつかまえて食べたりして、魚の腹のなかでの生活をけっこう楽しんでいる。『新バイブル・ストーリーズ』に登場するキャラクターのなかでは、このヨナがいちばん好きだ。

いちばん印象に残っているのは、「よきサマリア人」。聖書とほぼ同じ内容だが、「道」を中心に据えて語ることで、「隣人愛」という漠然とした概念がたしかな手触りで伝わってきて、「隣人を愛するって、いいものだな」と素直に思えるようになっている。物語の持つ力を改めて実感した1篇だった。
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by csiumd | 2007-12-21 14:36 |