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ガラスの宮殿

アミタヴ・ゴーシュの『ガラスの宮殿』。最高に良かった。文句なしの傑作。今年読んだ小説のなかでも一、二を争うのではないだろうか。

ビルマとインド、タイといった東南アジアを舞台に、19世紀末から20世紀末までの激動の時代を生きた人たちの物語を3世代にわたって描く、壮大なスケールの小説。物語を読む楽しみを心ゆくまで堪能できる。

謎で読者の気を惹くわけでも、派手な展開や見せ場があるわけでもなく、どちらかといえばむしろ抑え目のトーンで語られているのに、ものすごい力で物語のなかに引き込まれた。あの吸引力はなんなのか。あまりにどっぷり入り込んでいたせいで、読後しばらくは思考がまともに働かなかった。

壮大なスケールでありながら、登場人物ひとりひとりがとても丁寧に描かれていて、その内面に抵抗なくすっと入り込める。とくに印象的だったのは、英国インド軍の士官として第二次大戦に参加しながら、英国からの独立をめざすインド国民軍に加わったアルジャンの葛藤。キシャン・シンとの最後のやりとりには涙が出た。

この小説には、いろいろな立場の人が出てきて、それぞれの視点からいろいろなことを考える。歴史的に見れば取るに足りない人たちだが、ときに選択を誤ったりつまずいたりしながらも、懸命に激動の時代を生き抜こうとしている。そういう人たちに向ける作者の優しい視線を小説全体から強く感じた。

歴史の大きなうねりのなかでは、人はほんとうに弱く無力で、ただ翻弄されるしかないが、それでもそれぞれが必死に生きている――というふうに言葉でまとめるとどうも陳腐になってしまうが、この小説を読んでいると、それを理屈ではなく感覚として感じ取れる気がする。

『ガラスの宮殿』は、軍事政権下のミャンマーで幕を閉じる。言論を弾圧され、つねに監視されていながら、そこで生きる人たちはけっして絶望していない。600ページ超の果てにたどりつく、ちょっとひねりのきいたユーモラスで温かなラストシーンはすばらしかった。
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by csiumd | 2007-11-09 15:36 |

猫のあしあと

町田康の『猫のあしあと』。『猫にかまけて』に続く、写真入り猫エッセイの第2弾。

町田康のエッセイはだいたいどれもおもしろいが、猫がらみのものがいちばん好きだ。私は基本的に、人が自分の好きなもののことを独断と偏見で語っているのを見たり聞いたりするのが好きなのだが、この猫エッセイシリーズは、「この人、ほんと猫が大好きなんだなあ」という感じがこれでもかというほど伝わってくる。町田康にしてはめずらしいほど素直な心情がストレートに出ていると思う。

私は猫を飼った経験はないが、この本を読んでいると、なるほど、猫というものは、人間の背中で爪を砥いだり、人間が愚かなことをしていると部屋の隅へそそくさと歩いていって背中を舐めたりするものなのか、とたいへん勉強になる。

期待にたがわず今回もとてもおもしろかったが、最後はかなりつらかった。『猫にかまけて』から登場しているゲンゾーとは、なんとなく知り合いのような気になっていたから。ゲンゾーがココアと仲よく楽しく暮らしていることを心から祈る。
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by csiumd | 2007-11-01 16:03 |