<   2006年 12月 ( 3 )   > この月の画像一覧

真実真正日記

町田康の『真実真正日記』。

この本、表紙が怖すぎるよ。あんまり怖いから、表紙を下にして置くように気をつけてたけど、それでもうっかり目に入ってしまって、何度恐ろしい思いをしたことか……。いやがらせとしか思えない。

でも中身はおもしろかった。
[PR]
by csiumd | 2006-12-21 14:58 |

失われた町

三崎亜記の新作長編『失われた町』。今年は去年に比べてガツーンとくる小説が少ないかな、と思っていたら、最後の最後に大物が来た。

30年にいちど、町が――というか、そこに住む人々が消滅する。残された人たちは、次の消滅を少しでも遅らせるために、写真や書物といった町にまつわるものすべてを抹消する。失われた人たちを思って悲しむことも許されない。いったいたぜ町は消滅するのか? 消滅を防ぐことはできないのか――?

『となり町戦争』と同じく、普通ではありえないようなできごとが、ごく普通の町でごく普通のことのように起きているというパターン……かと思ったら、舞台設定がぜんぜん普通ではなかった。大きな出来事を経たあとの近未来のようでもあるし、いまの世界とはまったく別のなりたちを持つパラレルワールドのようでもある。

全体にSF的なにおいがあるような気がするけれど、サイエンス・フィクションと呼ぶには、科学で説明のつかないことがこの小説にはあまりにも多すぎる。なぜ町が消滅するのか、消滅した人はどうなるのか、そもそも「町」っていったいなんなのか。わからないことだらけだ。

SF的な言葉やモノが出てくるいっぽうで、楽器とかお茶とか、どこか古風で異国情緒の漂う要素もちょくちょく顔を出す。どことなく上海の租界にも似た「居留地」は、ほとんど誰かの夢のなかに迷いこんでしまったような世界だし。SFというよりは、むしろファンタジーと呼ぶほうが近いのかもしれない。

まあ、そんな呼び方はどうでもいい。SFでもファンタジーでも、普通ではありえないような設定でも、この話のなかにある感覚は、すごくリアルだ。ちょうど「管理局」の人たちのなかで「汚染」が蓄積していくように、悲しみとも苦しさとも切なさともつかない感覚が、読んでいるうちに蓄積されていく。

大切な人たちを失った悲しみを乗り越え、たとえ力が及ばないとしても、次の消滅を防ぐためにできるかぎりのことをする――。設定にはいろいろとひねりが加わっているけれど、根っこのところではとてもまっすぐな小説だと感じた。
[PR]
by csiumd | 2006-12-15 17:41 |

ぼくと1ルピーの神様

ヴィカス・スワラップの『ぼくと1ルピーの神様』。

18歳のウェイター、ラム・ムハンマド・トーマスが、インド版『ミリオネア』的テレビ番組で12の質問すべてに正解し、10億ルピーの賞金を獲得する。学校にも行っていない孤児のトーマスが、なぜすべての質問に答えられたのか――?

『ぼくと1ルピーの神様』は、そのトーマスの過去をたどりながら、彼が質問に答えられた理由を明かしていくという形で展開する。相当に波乱万丈だし、ひとつひとつのエピソードにはきっちりヤマとオチがあるし、おまけに謎解き的な要素もあったりするので、これはもう引きこまれずにはいられない。

孤児の少年が10億ルピーを獲得、なんてきくと、ものすごく華々しいサクセスストーリーのような気がするけれど、インドの現実を背景にしたトーマスの過去はあまりにも苛酷で、何度も目をそむけたくなる。死と貧困と不公平がいたるところに転がっている。

そんな苛酷な人生を生きてきたトーマスが、過去に受けてきた不当な扱いや侮辱を思い返す最後の葛藤には、胸をつかれる。クライマックスなので詳しくは書かないけれど、どんな人間も本来、彼のような結論にたどりつくものなのだと信じたい。

帯によれば、この小説は映画化が決定しているらしい。おもしろい小説がおもしろい映画になる確率は、12の質問すべてに正解する確率ほどではないにしてもかなり低いものなので、あんまり期待はしていない。けど、やっぱりちょっと楽しみだ。
[PR]
by csiumd | 2006-12-02 15:27 |