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The Sea

2005年のブッカー賞を受賞したジョン・バンヴィルの『The Sea』。カズオ・イシグロの『Never Let Me Go』を抑えての受賞というからには、それはもう素晴らしいんだろうと期待して読んだら、ほんとに素晴らしかった。

語り手は妻を失ったばかりの初老の男。子ども時代に夏休みを過ごした海辺の村で、妻が亡くなるまでのいきさつと、かつて同じ場所で経験した過去の悲劇を回想する、というストーリー。

何よりも素晴らしいのが、物語全体に漂う静謐な喪失感。読んでいると、周囲の音がすうっと消えて、時間が止まってしまうような気がした。これを読んでいるあいだ、私はちゃんと呼吸をしていたのだろうか、と疑ってしまうほど。ちょっと今までに味わったことのない感じだった。

この話のなかでは、人も記憶も時間も、あらゆるものが指のあいだから砂がこぼれ落ちるように消えていき、海だけがいつまでも変わらずに静かに波打っている。記憶の揺れと心の揺れが波のうねりと一体になって、そのままのみこまれていくような圧倒的な感覚には、ため息をつかずにはいられなかった。

いつまでも余韻に浸っていたいと思わせる小説。文句なしの名作です。
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by csiumd | 2006-02-27 21:08 |

世界の果てのビートルズ

ミカエル・ニエミの『世界の果てのビートルズ』。スウェーデンの北の果てでロックンロールに夢中になる少年と、その地に生きる愛すべき人たちの物語。おおいに笑って、じわっと懐かしい気分になる小説。

この話、とにかく酒くさい。エピソードの大半に酔っぱらいが絡んでいる。中学生くらいのガキどもまでが、自作の密造酒で大酒飲みコンテストを催したりする。北極圏みたいなところだと、お酒でも飲んであったまらないと、寒くてやってられないんだろうな、きっと。だからって、倒れるまで飲む必要もないんだけど(というか、雪のなかで酔いつぶれたら凍死しちゃうでしょ? だいじょうぶなの?)。

それにしても、酔っぱらいという生き物は、万国共通でおもしろい。

結婚式の宴会で、ちょっとした諍いをきっかけに、酔っぱらった男どもによる花嫁側親族vs.花婿側親族の腕相撲合戦がはじまり、勢いあまって婆さん連中までもが指相撲合戦を繰り広げ、あげくの果てにサウナでの我慢大会に突入するくだりなんて、ハチャメチャでもう最高。おもしろすぎる。

ところで、この宴会に不思議な食べ物(飲み物?)が出てきた。デザートの一品として出されたメニュー。なんでも、塩気の強いトナカイの干し肉をコーヒーに入れ、さらにチーズをひとかけ加え、唇に角砂糖をはさみ、肉とチーズを混ぜたコーヒーを受け皿に空けて、それをすするらしい。

コーヒーと肉とチーズと角砂糖?? どんな味か、まったく想像がつかない。でも、「天にも昇る美味」って書いてある。ほんとかなぁ。トーネダーレン地方の伝統なんでしょうか。日本で言えば、緑茶に梅干を入れるようなもの? ちょっと怖い気もするけど、いちど味見してみたい。
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by csiumd | 2006-02-03 19:30 |