四人の兵士

首を長くして待っていたユベール・マンガレリの新刊『四人の兵士』。とてもよかった。胸の深いところに残るすばらしい小説だった。

『おわりの雪』と『しずかに流れる緑の川』はどちらも父と息子の物語だったが、今回は東欧から敗走する赤軍の兵士4人の物語。それでも、訥々とした静かな語りのなかに張りつめた感情が凝縮されているところは、今作でも変わらない。

物語は4人が連れになるところからはじまる。創意工夫の得意なパヴェル。力持ちで単純なキャビン。もの静かでやさしいシフラ。そして語り手のベニヤ。4人とも個性的で、愛さずにはいられない人たちだ。

所属する部隊が森のなかで春を待つことになり、4人はあの手この手で極寒の冬を乗り越える。4人だけの秘密の沼を見つけて、毛布を洗濯したり、魚をつまえたり。冗談を言いあったり、賭け事をしたり。ときおり隠し切れない不安が顔をのぞかせるが、その生活は軍隊だということをうっかり忘れそうになるくらい、平穏で満ち足りている。

その平穏な生活も、出発命令が出たことで一気に崩れ、物語は結末に向かって否応なしに押し流されていく。それまでが穏やかだったぶん、どうにも抗えない流れに飲みこまれていくような終盤の展開は圧倒的だった。

何度も「ずっと一緒にいられるか」と確認するキャビン。隊に戻らず沼に残ろうと言い出すパヴェル。何も言わずにただみんなを見つめるシフラ。静かで控えめなベニヤの語りのなかにそれぞれの心情が浮かびあがり、息が苦しくなるような切実さで迫ってきた。

「空は果てしなく、言葉にできない」。物語の最後のモノローグで、ベニヤは丘の斜面に立って空を見上げながらそう語る。その言葉にできないものを、余分なものを削ぎ落とした言葉でこれほどあざやかに描くマンガレリは、ほんとうに稀有な作家だと思う。まだ翻訳されていない作品の出版を心から願う。
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by csiumd | 2008-08-08 13:46 |
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