愛しの座敷わらし

新聞の書評で目にして気になった荻原浩の『愛しの座敷わらし』。とても温かくて幸せな気分になる小説だった。このところ、どちらかといえばネガティブなほうに感情が動く本を読む機会が多かったので、なおさら温かさが身に沁みた。

簡単に言えば、いろいろとぎくしゃくしている一家が父親の転勤で築103年の古家に引っ越したのだが、どうやらその家には座敷わらしが住んでいるようで……という感じの話。

この話に出てくる一家は、父、母、長女、長男、祖母の5人暮らしで、それぞれがそれぞれの悩みを抱えている。まあ悩みといっても、人類が滅びるとか無実の罪で投獄されるとかに比べたらほんとうに取るに足らない小さなものだけど、でも結局のところ、毎日の暮らしのなかでいちばん大きな位置を占めるのは、こういうささいな悩みなんだよな、としみじみ思った。

しかし、この小説のいちばんの主役は、なんといっても座敷わらしだ。もう頭から食べたくなるほどかわいい。けん玉に夢中になっているところなんか、「どうか拙宅にお住まいください!」と懇願したくなるほどのかわいさ。でも、座敷わらしが生まれた悲しい背景を知ってしまったあとでは、そのかわいさや無邪気さがいっそう悲しさを浮き立たせているようで、かわいければかわいいほど胸が痛んだ。

高橋一家が東京に戻ったあと、あの古い家に座敷わらしがひとりで残されるのかと思うと、たまらなくさびしい気もちになったけど、最後の最後でさびしい気もちのまま終わらずにすんで、ほんとうによかった。
[PR]
by csiumd | 2008-05-22 13:24 |
<< 道元の冒険 終わりの街の終わり >>