今日の夕刊に、カート・ヴォネガットが亡くなったという記事が出ていた。
はじめてヴォネガットの小説を読んだのは、高校のときだった。司書の先生が『タイタンの妖女』を勧めてくれたのだ。 これを読んでから、小説に対する見方が変わった。「作者」という存在を意識するようになった。 それまでの私にとって、小説はあくまでも「物語」としてのみ存在するもので、作者はただの名まえ、というか、ほとんど記号にすぎなかった。 ところが、『タイタンの妖女』を読んだときに、なぜだかわからないけどまったく突然に、小説の作者というのが不完全な生身の人間で、私と同じように悩んだり苦しんだりしているのだということに気づいた。 そんなあたりまえのことに高校生になるまで気づかなかった、というのは情けない話だけども、とにかくそれ以来、小説の読み方がまちがいなく変わったと思う。 そういうふうに変わることがなければ、たぶん、翻訳をやりたいと思うことはなかった。だから『タイタンの妖女』は、おおげさに言えば人生を変えた本ということになる。 『タイタンの妖女』は、いまでもとても大切な本だ。『スローターハウス5』も『スラップスティック』も『ガラパゴスの箱舟』も、ほかのたくさんのヴォネガットの本も。それは一生変わらないと思う。 ヴォネガットはもう小説は書かないと宣言していたようだけど、それでも、これでほんとうに新しい小説が書かれることはなくなったのだと思うと、とても淋しい。 愛すべき小説をたくさん書いてくれたヴォネガットに、心からの感謝を。
by csiumd
| 2007-04-12 21:47
| 本
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