三崎亜記の新作長編『失われた町』。今年は去年に比べてガツーンとくる小説が少ないかな、と思っていたら、最後の最後に大物が来た。
30年にいちど、町が――というか、そこに住む人々が消滅する。残された人たちは、次の消滅を少しでも遅らせるために、写真や書物といった町にまつわるものすべてを抹消する。失われた人たちを思って悲しむことも許されない。いったいたぜ町は消滅するのか? 消滅を防ぐことはできないのか――? 『となり町戦争』と同じく、普通ではありえないようなできごとが、ごく普通の町でごく普通のことのように起きているというパターン……かと思ったら、舞台設定がぜんぜん普通ではなかった。大きな出来事を経たあとの近未来のようでもあるし、いまの世界とはまったく別のなりたちを持つパラレルワールドのようでもある。 全体にSF的なにおいがあるような気がするけれど、サイエンス・フィクションと呼ぶには、科学で説明のつかないことがこの小説にはあまりにも多すぎる。なぜ町が消滅するのか、消滅した人はどうなるのか、そもそも「町」っていったいなんなのか。わからないことだらけだ。 SF的な言葉やモノが出てくるいっぽうで、楽器とかお茶とか、どこか古風で異国情緒の漂う要素もちょくちょく顔を出す。どことなく上海の租界にも似た「居留地」は、ほとんど誰かの夢のなかに迷いこんでしまったような世界だし。SFというよりは、むしろファンタジーと呼ぶほうが近いのかもしれない。 まあ、そんな呼び方はどうでもいい。SFでもファンタジーでも、普通ではありえないような設定でも、この話のなかにある感覚は、すごくリアルだ。ちょうど「管理局」の人たちのなかで「汚染」が蓄積していくように、悲しみとも苦しさとも切なさともつかない感覚が、読んでいるうちに蓄積されていく。 大切な人たちを失った悲しみを乗り越え、たとえ力が及ばないとしても、次の消滅を防ぐためにできるかぎりのことをする――。設定にはいろいろとひねりが加わっているけれど、根っこのところではとてもまっすぐな小説だと感じた。
by csiumd
| 2006-12-15 17:41
| 本
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