ミーナの行進

小川洋子は、わたしにとって不思議だらけの作家だ。

まず、わたしはこの人の文章が(控えめに言っても)あまり好きではない。使われている言葉のひとうひとつとか、言い回しとか、会話の語調とか、そういうもろもろがどうも肌に合わない。

にもかかわらず、そこに漂っている雰囲気には強い引力を感じるし、なによりも、読み終わったあとには、かなりの確率で「わたしはこの人の小説が好きだ」と確信する。

いったいどういうわけで、文章を好きになれない人の小説を好きになれるのか、さっぱりわからない。いつも小川洋子の新しい小説が出ると、「今度こそ謎の解明を!」と思って読みはじめるし、今回もそうだったんだけど、やっぱりよくわからなかった。この謎は一生解けないような気がしてきた。

それに、なんだか知らないけど泣かされる。

どこが悲しいというわけではないのに、読んでいるあいだ、ずっと泣く寸前みたいな状態にある。なんというか、心情的にではなく、体が勝手に反応して泣く、みたいな感覚。泣けと言われればいつでも泣ける気がする。コップいっぱいの水が、表面張力でぎりぎりあふれずにいる感じ。

そういう感じがずっと続いて、ふとした拍子に、泣きどころでもなんでもないようなところで、いきなりぽろっときたりする。これも、なんでそういうことになるのか、よくわからない。

きちんと突きつめて考えればわかるのかもしれないけれど、そういう読み方はあまりしたくないような気もする。

なんだか『ミーナの行進』の話ではなく、小川洋子の話になってしまったけど、今作はなにがいいって、絵がすばらしい。とくにマッチ箱の絵。マッチ箱がほんとうに本のうえにあると錯覚する瞬間が何度かあった。

それから、やっぱりカバ(コビトカバ、と言わないとだめなんだっけ?)。小川洋子の話に出てくる人間って、どうも生身ではないような気がするんだけど、カバのほうが人間よりも生身なところが不思議。ついでに言えば、生物よりも物体のほうが(マッチ箱とか、屋敷とか)生身の感じがする。まあ、これは今作に限ったことではないけど。

それにしても、こんなに生身感のない人たちの繰り広げる物語が、どうしてあんなに生々しい感覚を生むのだろう。小川洋子の謎は深まるばかり。
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by csiumd | 2006-04-28 19:55 |
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