左見右見。とみこうみ、と読むらしい。仮にも言葉を使う仕事をしているというのに、この四字熟語は聞いたこともなかった。情けない。
座右(といっても実際は左側に置いてあるけど)の電子辞書を引いてみると、「あちらを見たり、こちらを見たり」とある。字面そのままですね。 別役実の新しいエッセイ集『左見右見四字熟語』。いろいろな四字熟語をテーマに、別役流レトリックが展開されている。一気に読んでしまうのはもったいないので、一日一項ずつ、ちまちまと読んでいる。まだ半分くらいしか読んでいないが、あいかわらず愉快だ。 たとえば、「七転八起」の項。ここで別役氏は、「起き」が1回多いと文句をつけている。7回転んだのなら、7回起きれば既に立ち上がっているのだから、「七転七起」でいいはずだ。この多すぎる「起き」はなんなのだ、というわけだ。ごもっとも。 で、この1回多すぎる「起き」の辻褄を合わせるべく、国語審議会まで引っぱり出して展開される論理は、ナンセンスといえばナンセンスだが、鋭いといえば鋭い。ものすごい洞察を与えられているような気もするし、煙に巻かれているだけのような気もする。このへんのさじ加減がたまらない。 目次をざっと見ると、知らない四字熟語がけっこうある。まあ知らなくても、本文でだいたいの意味が言及されているわけだが、別役実なのでうっかり鵜呑みにはできない。なにしろ、「ゴキブリはゴ類のキブリ種であるから、正しくはゴキ・ブリではなくゴ・キブリである」みたいな嘘っぱちを何食わぬ顔で書く人なのだ(これ、嘘ですよね? わたしが知らないだけで、実はほんとうだったりして)。 今回のシリーズには、いまのところ、その手の嘘っぱちは登場していないようだ。よかったと言うべきか、残念と言うべきか……。最近の別役氏のエッセイは意外と真面目(あくまでも比較的)で、奇天烈なものは少ない気がする。『虫づくし』みたいなとんでもないやつ、また書いてくれないかな。期待してます。
by csiumd
| 2005-12-02 20:42
| 本
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