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ケリー・ギャングの真実の歴史

ずっと気になっていたものの、なんとなく買いそびれていたピーター・ケアリーの『ケリー・ギャングの真実の歴史』。先日、この本を古本屋で見つけた。これはきっと、「いいかげん読みなさい」という本の神様のお告げにちがいないと思うことにして、とうとう購入に踏み切った。こと本に関しては、この手のめぐりあわせに素直に乗ることにしている。いままでの経験から言えば、こういうめぐりあわせで読んだ本は、まず外れることがない。

『ケリー・ギャングの真実の歴史』は、オーストラリアに実在した無法者ネッド・ケリーの物語。ネッド・ケリー本人が娘に宛てて書いた手紙という形式で、彼の人生が語られている。

ケリー・ギャングについては、「オーストラリアで名を馳せた、庶民に人気の山賊」程度の知識しか持っていないので、この小説のどこまでが史実でどこまでがフィクションかはさっぱりわからない。が、そんなことはまったく問題ではない。というのも、ネッド・ケリーという人物と彼が生きた19世紀のオーストラリアが、真実以上にリアルに描かれているからだ。

ろくな教育を受けていないネッドが書いた手紙、という形式をとっているので、全体に話し言葉のような文体で、ひらがなが多く、読点がまったくない。そんな文章のせいか、ときどきネッド・ケリー本人が目のまえで語っているような感覚に陥ることがあった。

この小説で描かれているネッド・ケリーという人物は、とても魅力的だ。さんざん裏切られ、痛めつけられているというのに、あきれるほど人を信じやすく、純粋で前向き。おそろしく単純かと思えば、ときどきはっとするほど鋭いことを言う。

一方、この小説から浮かび上がってくる19世紀オーストラリアの社会は、とても苛酷だ。父親が元流刑囚のネッドは、そのせいで警官に目をつけられ、なにかと濡れ衣を着せられたり、偽証で刑務所に放りこまれたりする。ほんとうはギャングになどならずに、普通の人生を生きたかったネッド。でも、どんなにがんばろうとしても、まっとうに生きることを社会が許してくれない。そうしてどんどん追いつめられていき、ついにギャングにならざるをえなくなる。こんな不条理なことがあっていいのだろうかと、怒りとも悲しみともつかない感情がわいてくる。

ネッドは「無法者」と呼ばれているが、この小説を読むかぎりでは、法が無いのはむしろ警官や大牧場主のほうだ。弱い者は徹底的に痛めつけられ、貧しい者は搾取されていっそう貧しくなっていく。こういう社会の現実は、古今東西どこへ行っても変わらないものなのかと思うと、かなり憂鬱な気分になる。それでも、現実に立ち向かおうとしたネッドの姿には、かすかな希望の光を感じた。たとえ結局は乗り越えられなかったとしても、ネッド・ケリーのしたことは無駄ではなかったのだと信じたい。
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by csiumd | 2008-04-28 20:47 |