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犬棒かるた

甥っ子の誕生日プレゼントになんかいいもんないかなー、と思ってアマゾンのおもちゃコーナーを見ていたら、うっかり武井武雄の犬棒かるたを見つけてしまい、プレゼントそっちのけで自分のために買ってしまった。

このかるたは、昭和9年に発行されたものの復刻版で、絵札の絵も字札の字も武井武雄の手によるものらしい。武井武雄独特のユーモラスでちょっと不気味で、でもなんだかわくわくする雰囲気が存分に発揮されている。

武井武雄の絵って、人物の表情がおもしろいのはもちろんだけど、ちょっとした細部や小道具がものすごくいいと思う。「れいやくは くちににがし」なんて、薬の袋がぽつんと描いてあるだけなのに、なんだかやけに味がある。

私のお気に入りは、「うらなひしや みのうへしらず」。やたらと顔の長い占者がいかにもぼんやりとしていて、ムズムズとおかしい。笑いのツボが微妙に刺激される。

あと「まけるが かち」も好き。強そうな人がひょろっとした人を踏みつけている絵柄なんだけど、踏みつけられている人がにっこにこで楽しそうなのに、踏みつけている人がぷんぷんと怒っている様子がなんともかわいい。

眺めているだけでも、かなりの時間をつぶせる逸品だ。というか、つぶしてはいけない時間までつぶしてしまいそう……
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by csiumd | 2007-10-26 12:01 | アート

三面記事小説

角田光代の『三面記事小説』。実際の三面記事に発想を得た短篇集。ネタ元になった記事がそれぞれの冒頭に挙げられているが、もちろん、事件の背景や登場人物は完全なフィクション。

この短篇集は怖かった。事件のあらましがあらかじめわかっているせいか、なんというか、ホラー映画でおどろおどろしい音楽が流れて、驚愕のシーンが来るのをいまかいまかと待っているのにも似た緊迫感がある。

でも、いちばんの怖い理由は、日常的で身のまわりにいくらでもありそうなところだと思う。このへんは、三面記事に本質的に備わっている特性だと思うが、それが小説という仕掛けをつうじて増幅されている。一歩先に奈落が口をあけて待っているようなリアルな恐怖を感じた。とくに、冒頭の二篇「愛の巣」と「ゆうべの花火」は怖かった。不気味なものが足元から背筋をぞわぞわと這いあがってくるような恐怖感。へたなスリラーよりもよほど怖い。

最後の「光の川」も印象的。これは怖いというよりは、とにかくやるせなかった。認知症の母親を介護する息子が、介護に疲れて母を殺してしまうのだが、だれの助けも得られずにどんどん追いつめられていき、ついにはふっつり切れてしまうさまが、なんかもう本当につらかった。

あんな記事からあれだけの小説をつくりあげるとは、プロの作家の想像力と構成力はたいしたものだ。
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by csiumd | 2007-10-14 15:36 |

世界の涯まで犬たちと

アーサー・ブラッドフォードの『世界の涯まで犬たちと』。これはもう100%タイトルにつられて買ったのだけど、なんともおかしな短篇集だった。「なんなんだ、これは」と思いながら読んでいくうちに、すっかりはまってしまった気がする。

収録されている10篇超の短篇は、どれも「ぼく」という一人称で語られている。たぶん、それぞれの話の「ぼく」は別人だと思うけど、同一人物と言っても通るくらい同じにおいがしていて、感情が希薄というか、ものごとに執着しないというか、「まあいいか(どうでも)」というムードがありありと漂っている。なのにどういうわけか、投げやりとか冷たい感じにはならないのが不思議だ。

この短篇集には、はっきり言ってまともな人はひとりも出てこないし、起きていることもまったくもってまともじゃない。道で拾った巨大ナメクジを誰かに売りつけて大儲けしようと画策したり、カエルの卵を飲み込んで腹のなかで孵化させて吐き出したり、恋人の飼い犬と関係を持って妊娠させたり、挙句の果てには自分が犬になってしまったりする。

そんなヘンテコな人たちがヘンテコなことばかりしているのだが、仕方ないか的に受け流す「ぼく」のスタンスのせいで、こっちもだんだん「いや、もしかして、それほどヘンテコでもない?」という気になってきたりする。

この本のおかしさをよく表しているのが、「ドッグズ」という短篇。恋人の飼い犬と関係を持ち、その犬が妊娠していることが明らかになるのだが、自分が父親だという確信が持てなくて、犬相手に「正直に話してくれ。ほかに男がいるのか?」とか本気できいているのが、おかしいやらおかしくないやら、いやまあおかしいんだけど。ちなみに、この本に出てくる会話は、総じて非常におもしろい。すっとぼけたおかしさがあるというかなんというか。

個人的にいちばん好きなのは「ビル・マクウィル」。ビルみたいな友人はまちがってもほしくないが、なんとなく情が移ってしまう。正確に言えば、「ぼく」的な淡白で希薄な情が移るというか。ともかく、すごく微妙に感情を刺激する話で、読み終わったあと、なんとも言えない妙な気分になった。

ほかの作品があれば、ぜひとも読んでみたい作家だ。
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by csiumd | 2007-10-06 13:39 |