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やってきたゴドー

木山事務所の『やってきたゴドー』。タイトルを見ればわかるとおり、ついにゴドーがやってきた、という話。

別役実独特の「なんだか妙におかしい」雰囲気が全開の芝居。ゴドーが「ゴドーです」って言うだけで、なんかもう笑える。おもしろかった。

別役実の芝居には、話がつうじてないとか、会話がかみ合ってないとかいう状況がよく出てくるけど、この芝居はもう、最初から最後までぜんぜんかみ合ってない。非生産的な会話がぐるぐるぐるぐると続く。

で、さんざん笑っていたかと思えば、ふと不安みたいなものが流れてきて、なんとなく落ち着かない気分になったりする。このへんの笑いと苦味のバランスがたまらない。すごく好き。

なんでもいま、「別役実祭り」なるものが開催されているようで、4月に『壊れた風景』と『場所と思い出』の2本が上演されるらしい。ものすごく観に行きたいけど、4月は死ぬほど忙しくなりそうだから、時間がとれるかどうか……。でも行きたい。芝居って、観られるときに観とかないと、次いつやるかわかんないし。やっぱ行こうかな。
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by csiumd | 2007-03-30 12:58 | 芝居

観光

ラッタウット・ラープチャルーンサップの短篇集『観光』。いちど読んだだけでは絶対に覚えられない名前のこの作者は、タイ系アメリカ人らしい。収録作品もすべてタイが舞台になっている。

ひとことで言って、すばらしい。もう最高。そのへんの道をぐるぐる走り回りたいくらい好み。こういう出会いがあるから小説はやめられない。

「人の絆はもろく、はかない。しかし、それゆえに美しい」

帯に書かれたこのフレーズが、この短篇集をとてもよく表していると思う。親子だったり、友人だったり、行きずりの人だったり、その関係はさまざまだけれど、そこにある思いや心の揺れを、大げさにも感傷的にもならずに、でも丁寧に丁寧に紡いでいる。

どの話もけっして起伏の激しいものではなく、どちらかといえば淡々としているのに、舞台となっているタイの雑然とした活気のせいか、不思議な熱のようなものが感じられる。「観光」や「プリシラ」なんかはかなりつらい話だと思うけれど、それでもどこか前向きのエネルギーがある。

とにかく、収録作品すべてが光を放っているようで、まさに「珠玉」という形容がぴったりくる短篇集。

驚いたのは、この作者が1979年生まれで、しかもこの本がデビュー作だということ。そんなに若くしてこんな小説を書けるなんて、いったいどういうこと? 中篇といってもいい長さのある「闘鶏師」もすばらしかったし、長篇もぜひ読んでみたい作家だ。

この『観光』は、早川書房が創刊したハヤカワepi〈ブック・プラネット〉の第一弾として刊行されたもの。帯裏の説明を読むかぎりでは、まだあまり知られていない世界の文学を紹介する、というコンセプトのシリーズらしい。今後の刊行が楽しみだ。こういうのをきっかけに、翻訳物の文芸作品が力を盛り返してくれるといいんだけど。
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by csiumd | 2007-03-17 15:08 |

ナンバー9ドリーム

デイヴィッド・ミッチェルの『ナンバー9ドリーム』。『Cloud Atlas』がおもしろかったので、ほかの作品も読んでみたいと思っていたら、ありがたいことに翻訳本が出てくれた。

屋久島生まれの主人公が、父親を探すために東京に出てきたはいいけれど、当の父親にはちっとも会えず、ヤクザの抗争に巻き込まれ――というのが、ごくごくおおまかなストーリー。作者はイギリス人で、もともとは英語で書かれた小説にもかかわらず、ここに出てくる「東京」はすごくリアルだ。ディテールがどうこう、というよりは、街の感触が。

この小説は、とにかく密度が濃い。内容的にも濃いけれど、文章そのもののリズムも濃い。次から次へと情報を投げつけられ、あっというまに呑まれてしまう感じ。それが「東京」という情報過多な街の雰囲気と絡み合って、読んでいるうちにますますわけのわからない方向へ流されていく。読み終えるまでに、相当な体力を消費した気がする。

この小説の不思議なところは、そんなふうにぽんぽんといろんなものを投げつけられて、ほとんど飽和状態になっているのに、逆になぜかぽっかりとした空洞がどんどん広がっていくところ。で、最後の最後に空洞の底(屋根?)が抜けて、瓦礫ががらがらと落ちてくる、という感じか。

なにしろ長くてごったがえした小説なので、まだぜんぜん消化吸収できていない。というか、そもそも消化吸収なんてできるのだろうか、あれは。

それにしても人間ボウリングの場面、あれはちょっともう勘弁して。夢でうなされそう……。
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by csiumd | 2007-03-10 16:23 |