森に眠る魚

角田光代の『森に眠る魚』。『八日目の蝉』に劣らぬ傑作だと思う。

幼い子どもを育てる5人の母親たちの物語。なんの変哲もない、仲の良い「ママ友」たちの関係が、「お受験」をめぐる憶測やちょっとした誤解、ものの見方の相違により、少しずつ変質し、歪んでいき、やがて……という話。

ちょっとしたことが少しずつ積み重なっていき、後半になって一気に崩れていく展開は見事だった。とくに、手に汗握るクライマックスの凄みは圧巻。息をするのも忘れる、という感覚をひさびさに味わった。

裕福な暮らしを手に入れた千花にしろ、理解ある夫のいる瞳にしろ、この小説に出てくる母親たちは、客観的に見れば5人ともけっして不幸ではないと思う。それぞれ悩みや心の傷はあるが、そんなのは誰にでもあるものだし。不幸ではないはずなのに幸せになれない、しかもそれがなぜなのか自分ではわからない。そういう正体不明の曖昧な焦燥が、やけにリアルで身につまされる話だった。

角田光代の小説を読むと、人と人とはけっしてわかりあえないものなのだと感じることが多い。そのうえ、できれば目を逸らしたい醜い部分を容赦なくつきつけてくる、けっこう恐ろしい小説でもある。そんなふうにかなりシビアで残酷な内容なのに、全体としてはどうにかプラスの方向をむいているのが、この人の小説のおもしろいところで、個人的にも好きなところであると思う。

今作は幼い子どもの母親たちが主人公だったが、私には子育ての経験はないので、登場人物たちの悩みや葛藤をわりと客観的に見ていた部分もある。実際に子どもがいる母親たちは、この本を読んでどんな感想を持つのだろうか。ぜひともきいてみたいところだ。
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by csiumd | 2009-01-05 19:11 |
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