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『新潮』10月号の源氏物語特集

今年は『源氏物語』の千年紀にあたるということで、あちこちで『源氏物語』にちなんだ企画を目にするが、『新潮』の10月号では、源氏の各巻を現代の作家が新訳・超訳するという興味深い特集が組まれていた。

ラインナップは、江國香織『夕顔』、角田光代『若紫』、町田康『末摘花』、金原ひとみ『葵』、島田雅彦『須磨』、桐野夏生『柏木』。原典にかなり忠実なものあれば、ほとんど別物になっているものもあり、それぞれの個性が出ていてなかなか楽しめた。

いちばんの目当ては、もちろん町田康の『末摘花』。なんでこの人の書く文章はこんなにおもしろいのだろうか。もともと『末摘花』はコミカルな巻ではあるけれど、それにしてもおかしかった。源氏の君という人間のダメさ加減とかろくでなしっぷりが前面に出ていて、その一方で町田康の小説らしい偽善とか真実に対する妙な思い入れも垣間見えて、たいへんおもしろかった。『末摘花』だけといわず、『源氏物語』全篇を超訳してほしい。相当おもしろい小説になると思う。

あと気に入ったのが、角田光代の『若紫』。『末摘花』では時代や人物の設定はほとんど原典のままだったけど、この『若紫』では背景ががらりと変わって、キャバクラらしき店で下働きをする少女が金持ちの色男に身受けされる話になっている。といっても、登場人物の心理の流れは原典を踏まえたものになっていて、少し違った角度で解釈された若紫の心情が描かれている。「なるほど、こういうこと考えていた可能性もあるよなぁ」と思わず納得してしまう。原典を思いきって離れながら、でも別物にはならないバランスが絶妙だった。

この特集みたいな、特定のテーマに沿って複数の作家が競作する形式って、すごくおもしろいと思うのだが、巷ではあまり見かけない気がする。もっとどんどんやればいいのに。
by csiumd | 2008-09-12 15:08 |
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