Last Night in Twisted River

ジョン・アーヴィングの『Last Night in Twisted River』。ここ数作のアーヴィングの小説のなかでいちばん好きだ。すごくおもしろかった。例のごとく長い本だけど、ぜんぜん長さを感じない。というか、もっと長くてもいい。読み終わるのがもったいなかった。

個人的には、アーヴィングの小説のいちばんの魅力は、登場人物たちだと思う。肉付けがうまいというか。ここ最近のアーヴィングの小説は、いまひとつ登場人物に肩入れできない作品が続いていたが、今作は登場人物たちが本領を発揮した。

主人公のダニエルはもちろん(というか、それ以上に)、父のドミニクとその友人ケッチャムの造形がいい。このふたり、すごく好きだ。とくにケッチャムなんて、現実の世界にいたらどう考えても苦手なタイプなのに(こんな人が実際にいたらたいへんだけど)、アーヴィングの手にかかると好きにならずにいられないのは、不思議としかいいようがない。アーヴィング・マジック、おそるべし。

ところで、この小説には「she bu de」という中国語が出てくる(漢字だとたぶん「舎不得」)。別れのときに使う言葉で、英語にすると「I can't bear to let go」というような意味らしい。日本語だと、「離れがたい」とか「手放しがたい」といったところか。この言葉が、いかにもアーヴィングらしい印象的な使われ方をしていて、私はここでまんまと泣かされてしまったわけだけど、あの場面でこの言葉とあのフライパンを出すのは、ほとんど反則技だと思う。ずるい。泣かないわけがない。

泣かされてしまったから言うわけではないが、アーヴィングの語りはほんとうにうまいと思う。作者の思惑どおりに笑って、ハラハラして、泣いた気がする。完全に作者の手のひらの上で転がされていた感じ。まあ、それが楽しいんだけど。ストーリーテラーとは、まさにこういう人のことを言うのだと思う。

こういうのを読むと、小説を好きでいてよかった、と思う。幸せ。
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by csiumd | 2010-01-10 16:54 |
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